すごもりシネマ

お家(時々、映画館)で観てきた映画の個人的な感想

No.006『ボーンズ アンド オール』問題解決に問題を残していませんか?

“宗教”の教義的な概念の違いを感じた映画

(C)2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

2023年2月に公開されたばかりですが、U-NEXTで早速配信(有料)されていたので、視聴しました。

他の映画を観た時の予告でカニバリズムの映画だと知っていましたが、普通の人間社会に暮らしながら、“生理的に人が食べたくなる”人食い人種が登場します。

調べてみると実際に南太平洋の島“イロマンゴ島”では、部族同士の争いの果てに負けた相手を喰い、人間を食用として家畜していたという話もありました。

これは生き残ったその末裔のDNAなのか?そんな悲劇の中のラブストーリーでした。

人を食べることが“タブー視”されはじめたのは、宗教的な観点や文明の発達により、人間に理性や秩序が生まれたからです。

この映画の中ではラジオからキリストの説法が流れるシーンがあったりしますが、どんな話なのかまではわかりませんでした。

ただ、ストーリーの中で人食して神に許しを乞うたり、苦しみから解放を祈るシーンなどはなく、ただ本能が優先していきます。


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問題作となったアニメ『アシュラ』

飢餓や犯罪心理的な行為による人食は、信仰や秩序だけでは防げませんでした。そのことを思い出させたのが、数年前に鑑賞したアニメ『アシュラ』です。

原作はジョージ秋山の漫画(『週刊少年マガジン』(講談社)に1970年32号から1971年22号まで連載)です。

漫画自体も人食などの過激な描写から、非難が殺到し大問題作となりました。アニメは「眼を、そむけるな。」をキャッチコピーに2012年に公開されています。

『アシュラ』は飢餓や疫病で苦しむ平安時代末期が舞台です。貧しい女性から生まれたアシュラは、飢えのあまりに母に焼かれ喰われそうになりながらも生き延びます。

母は死にアシュラは「獣(ケダモノ)」のように成長していきます。 獣化したアシュラは動物のように俊敏で、野生の生き物はもちろん、「人」をも殺しその肉を喰らっていました。

人の手で育ったわけではないので、「言葉」は発せず「心」も育っていません

飢えによって心を失くし、我が子を食べようとした母親でしたが、遺体はそこら中にあった世の中です。人としての一線を越え、それらの人肉を食べながらアシュラを育て、やがで疫病か何かで息絶えたのですね。

アシュラにとって人間は生きていくために、捕食する対象となっていました。ある日、アシュラは念仏を唱えながら歩く法師を捕食しようとし、逆に倒されてしまいます。

法師はアシュラに人の心を諭そうとしますが、焦土化した乱世が生んだアシュラの姿を通し、命の営みを観念ではなく実感として体得します。

アシュラは法師の他に傷ついた自分を助け、食べ物を与えてくれる村娘と出会い、人の心を学びますが、ある事件をきっかけに娘から「ひとでなし」と呼ばれてしまいます。

そして、唯一心を開いた娘も飢餓と病で苦しみます。そして、飢えの苦しさから人食をしたアシュラの気持ちになっていきます。

それでも彼女は「人肉を食うものは犬畜生よりも劣る…人肉を食べるくらいなら死んだ方がまし。」という信念を貫き死んでいきます。

アシュラは愛おしい娘の最期の姿を通し、真の人道を垣間見て仏道の道を歩むようになります。


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この物語はケダモノと化したアシュラが人の心を持つまでのお話で、残酷で悲惨な状況も描かれていても、一筋の救いの光が見える作品でした。

『ボーンズ アンド オール』に感じる無慈悲感

映画『ボーンズ アンド オール』にはなぜ、カニバリズムになってしまったのかまでは描かれておらず、生まれつき食人だったという苦悩から、抜本的に救われないモヤモヤが残ります

キリスト教にもカニバリズム的な描写のある、教義があったりしますが、解釈によってさまざまな考えも生みます。キリスト教を広めようと入植した宣教師が、食人族に捕食された事件もあります。

宗教によって人道的な精神を育むのも難しく、まずは文明を強制的に植えつけ、そのあとに宗教的概念を諭すという流れで、食人文化は絶滅しました。

映画の解説等によるとカニバリズム”は社会的に排除されたり、疎外されている人を象徴的するためのメタファーでした。

なるほど…と、それは理解できたのですが、やはりどうしたら人を排除したり疎外する意識が変わるのか、あと一歩踏み込めていない感じは否めません。

実際に食人族が絶滅させられたように、力業で消滅させられているとでもいうのでしょうか?そんな無慈悲感を受けました。

 

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【参考図書】