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お家(時々、映画館)で観てきた映画の個人的な感想

映画『宇宙の彼方より』の感想|クトゥルー神話との出会い

“宇宙からの固体物質”が人間の傲慢さをあぶりだす

(C)SPÄRENTOR, Studio / Produzent / Cinemago

今回、縁あって今まであまり縁してこなかった、コズミックホラーと称される映画の試写を観させていただきました。

“コズミックホラー”という概念を提唱したのは、アメリカの小説家H・P・ラヴクラフト(1890-1937)で、このラヴクラフトの小説が原作の映画です。

映画『宇宙の彼方より』の視聴に際し、とりあえず何の情報も入れずに観ました。と、いうか、あまり事前に作品の情報を入れないで鑑賞するので、見出しさせていただいた一文が、鑑賞後の率直に感じたことです。

作品の情報

映画『宇宙の彼方より』は20世紀にアメリカで創作された架空の神話「クトゥルー神話」の先駆者として知られる、H・P・ラヴクラフトが1927年に雑誌「Amazing Stories」にて発表した小説『宇宙の彼方の色』が原作です。

監督を務めたフアン・ヴ監督は1982年、ベトナム人の両親のもと西ドイツ・シュトゥットガルトで生まれ育ちました。

ベトナム戦争が激化した1970年代、両親は留学先のドイツで故郷の分断を経験します。両親の故郷の歴史から、フアン・ヴ監督は民族アイデンティティに葛藤する少年期を経験します。

そんな監督に多大な影響を与えたのが、H・P・ラヴクラフトの小説でした。本作はラヴクラフト作品ファンも注目した映画で、史上最も忠実かつ野心的に描いた長編作です。

STORY

舞台は1975年のドイツ。マサチューセッツ州で科学者をしているジョナサン・デイビスは、3カ月前に失踪した父親の行方を捜すため探偵を雇い、ドイツのフランクフルトに渡独したことを知ります。

ジョナサンは父が第二次世界大戦中、軍医としてドイツに派遣されたことがある事以外、特にゆかりのある国ではなく困惑しつつ、少ない情報を元に父を捜しにドイツへ向かいます。

 

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感想と解説

コズミックホラーの概念として、「広大で無機質な宇宙、あるいは宇宙における超常的存在と対峙した人間の恐怖や孤独感を指す語」と、ありました。

本作はのどかな農村に突然落ちて来た“隕石”が原因で、研究員が調査のため連日訪れ、そこで暮らす人の生活リズムが崩されただけでなく、その調査によって予期せぬ事態が起きる話しでした。

たしかに観進めるうちに宇宙からの未確認物体への恐怖、あるいは新たな発見で名声を得ようとする貪欲な人間の浅ましさというものを感じます。

しかし、日本人だからなのか?この映画から感じたことは、第二次世界大戦で日本を敗戦と導いた兵器や、自然エネルギーを要しない国が頼るエネルギー源・・・こんなイメージが浮かびます。

戦時下だったとはいえいつもの朝を迎え、学校や職場に向かう庶民が突然投下された核爆弾。日常生活を豊かにするために頼ってきたエネルギーは、突然襲った大規模な自然災害によって脅威になった核燃料・・・。

否応なしにこの2つが脳裏に浮かびました。隕石が落ちてきたことは予期せぬ出来事でした。原子爆弾の投下は人が企てた作戦ではありますが、庶民にとっては未知の兵器を突然落とされたのと同じです。

安心安全と運用された原子力発電も未曽有の災害によって、脅威へと変わり庶民の生活が一変しました。

原子爆弾の元となる原子核の構成を発見したのはドイツ人科学者で、現実に兵器として投下したのはアメリカです。

このことからも映画『宇宙の彼方より』の描写はまさに、日本の歴史の中にあった悲劇そのものと重なりました。

全編モノクロで描かれ記録映画のような粗い映像がノスタルジー感を出し、謎の「色」と時々起きる閃光が強調され視覚的な不気味さを醸し出していました。

そして、なんといってもラストで待ち受ける謎解きが、サスペンスタッチで最後まで面白さを残しています。

原作者のH・P・ラヴクラフト

コズミックホラーに全く関心がなかったにも関わらず、鑑賞後は深掘りせずにいられなくなったのが、H・P・ラヴクラフト作品の力です。

原作者のH・P・ラヴクラフトは幼少時からギリシャ神話や化学や科学、天文学に傾倒していたので、のちのちの作風に大きな影響を与えていました。

しかし、原作は1927年3月に執筆され、同年のSF雑誌『アメージング・ストーリーズ』の9月号にて掲載されました。1945年の原爆投下より18年も前の小説です。

しかも中性子の発見も1932年なので、ラヴクラフトの着目は予知を越えた警鐘だったように感じさせました。

ところが着想の元ネタはもっと身近な土地や事件にあったようです。

フアン・ヴ監督について

H・P・ラヴクラフトが生んだコズミックホラーには、特化したマニアのファンが多くいます。それゆえに映像化するには、厳しい目が向けられたことは容易に理解できます。

ともすれば安っぽいチープな映画にならざるを得ないことが懸念されるからです。しかし、監督を務めたフアン・ヴ監督は、これまたインディーズ映画のマニアの間では、映像美の美しさに定評のある監督であるため、本作への期待も絶大でした。

その期待を裏切らず、フィンランドのナイトビジョン映画祭、スウェーデンのルンドファンタスティック映画祭をはじめ、ヨーロッパの数多くの映画祭に入選しています。

そして、製作から10年経っている今も高評価を得ながら、ついに日本に上陸する運びとなりました。

まとめ

映画『宇宙の彼方より』は鑑賞後に知ることになった、“コズミックホラー”クトゥルー神話というカテゴリーに・・・「なんぞや?」というところから始まり、鑑賞後には知れば知るほど、はまってしまうマニア要素が満載の映画です。

しかし、未知との遭遇への恐怖という感覚はなく、それ以上に日本人として、過去の過ちを思い起こさせた作品です。

そして、人間の傲慢による恐怖が未来には潜んでいるという、予見と警戒を与えた映画でした。

 

『宇宙の彼方より』は2023年6月3日(土)より下北沢トリウッド他にて全国順次公開!

 


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≪参考書籍≫