すごもりシネマ

お家(時々、映画館)で観てきた映画の個人的な感想

No.003『魂のゆくえ』★ネタバレ有★

f:id:yumcha_low:20201102172246p:plain 謎が深まるラスト・・・トラー牧師の求めていた理想とは?

魂のゆくえ

(C)Ferrocyanide, Inc. 2017. All Rights Reserved.

『50年の歳月をかけて完成した、魂の解放ともいえる作品』

ポール・シュレイダー監督は、戒律の厳しいプロテスタントの家庭で育ち、映画などの娯楽は18歳まで、鑑賞したことがなかったといいます。

プロテスタントの中でも、カルバン派と呼ばれる宗派は、神の福音を厳守することで、真の自由を得るという考えがあり、監督はその教義の中で育ちました。

『魂のゆくえ』は、監督が長年向き合ってきた、魂の解放というテーマから、自らの魂を解放した作品という見方もできるでしょう。 

映画『魂のゆくえ』の作品情報


映画『魂のゆくえ』予告

【作品概要】

『魂のゆくえ』は、第91回 アカデミー賞(2019年)で、脚本賞にノミネートされたほか、多くの映画祭で主演男優賞などを受賞した作品です。

主演のイーサン・ホークは、もともとは作家志望で演劇をしていましたが、1989年に出演した『いまを生きる』で、俳優として注目を集めます。『トレーニング デイ』(2002)でアカデミー賞助演男優賞、『6才のボクが大人になるまで。』(2015)で、ゴールデングローブ賞の最優秀助演男優賞にノミネートされました。2020年11月公開の話題作『ストックホルム・ケース』でも、主演を務めています。

6才のボクが、大人になるまで。(字幕版)

6才のボクが、大人になるまで。(字幕版)

  • 発売日: 2015/07/22
  • メディア: Prime Video
 

同じく主演のアマンダ・セイフライドは、11歳からモデルとして活躍し、2000年にTVドラマで女優デビューしました。映画デビューは2004年の『ミーン・ガールズ』で、「マンマ・ミーア!」(2008)でブレイクしました。その後も『レ・ミゼラブル』(2012)などの話題作に多く出演しています。 

マンマ・ミーア!(字幕版)

マンマ・ミーア!(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 これより先、『魂のゆくえ』のネタバレや結末の記載があるので、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

 

魂のゆくえ

(C)Ferrocyanide, Inc. 2017. All Rights Reserved.

【あらすじ】

ニューヨーク州北部の小さな教会「ファースト・リフォームド」。牧師のトラー(イーサン・ホーク)は信徒のメアリー(アマンダ・セイフライド)から相談を受ける。彼女の夫が地球の環境問題を思い悩むあまり、出産に反対しているというのだ。夫の説得を試みるトラーだったが、逆に教会が汚染企業から間接的に献金を受けている事実を知ってしまう。悩めるトラーは、やがてある決意をする。彼の聖なる願いと魂の行き着く先は…。

引用:『魂のゆくえ』オフィシャルサイト

  f:id:yumcha_low:20201102164949p:plain 映画『魂のゆくえ』を深掘りしてみました

エルンスト・トラー牧師は聖書の教えを人々に説いていく立場です。宗教理念を日々のくらしや人生にあてはめ、喜怒哀楽の意味を見出す生き方を説きます。

トラー牧師には一人息子がいましたが、彼の家系が代々従軍牧師であったことから、その一人息子に入隊を勧め、戦死させてしまったことで、心に深い傷を負っていました。

「ファースト・リフォームド」の創立250周年を目前に、にわかに慌ただしく従事する中、トラー牧師は“1年間”の限定付きで、日記をつけ始めました。

∴聖職者の苦悩

息子の死が原因で妻のエスターは家を出てしまいます。トラー牧師は1人で「ファースト・リフォームド」を切り盛りし、息子の死と向き合い、死の意味を見出すため葛藤していました。

ある日のミサで、妊娠した子供を堕胎するよう、夫から言われるメアリーという女性の相談をうけます。

トラーは聖職者の立場で、マイケルに命の尊さを諭します。 しかし、トラー自身が息子を戦場に送り、死なせてしまったことから、その教義に矛盾を感じてしまったのです。

●環境活動家のマイケル

メアリーの夫マイケルは、環境保護団体「グリーンプラネット」の活動家です。カナダでの抗議活動中に逮捕されましたが、釈放されてからは活動自粛をしていました。

ところが自粛生活中も、地球に及ぼす環境破壊を数値で追うあまり、絶望感から精神的にも追い詰められていました。

敬虔なクリスチャンのメアリーは、そんな夫とお腹の子を心配し、日曜ミサでトラー牧師に相談をしたのです。

●生命の尊厳と環境問題

トラー牧師のように聖職者環境問題を考えた時に、教義的な観点で様々な考え方や捉え方ができます。

キリスト教ならば、地球は母なる星です。キリストの子である人間が自ら、その地球の環境を破壊をすることは、タブーという構図になるのです。

マイケルは地球が滅亡する日をカウントダウンし、滅びゆくと知っていて、我が子を産み落とすことに、罪を感じていました。

マイケルの話しと、死と直結していると知りながら、戦場に息子を送り出したトラーは、命の尊さ重さを明解に諭せず苦悶するのです。

∴環境活動家の心の闇

トラー牧師は教義を諭す立場でありながら、壊れゆくとわかっていて、新しい命を世に出す迷う、マイケルの気持ちにも共感してしまうのです。

それでも表向き「未来は自ら変えていくもの」と、諭さねばなりません。トラー自身も矛盾に苦しむこととなっていきます。

一方マイケルは、自宅の倉庫で自爆用ベストを作成していたと思われ、隠してあるのをメアリーが発見し、トラーに連絡をします。

●マイケルを自殺に導いたものは?

メアリーから連絡をうけたトラーは、爆弾ベストを持ち去っていきました。次の日、マイケルはトラーを呼び出しますが、トラーが待ち合わせの公園に行くと、彼が自殺しているのを発見します。

爆弾ベストを着てどこかで、自爆テロを起こそうとして、その失敗を苦に自殺をしたのでしょうか?

自殺の真相がわからないことに、違和感を感じました。環境問題に絶望し、を選ぶということが直結しなかったのです。

逆にトラーには、信仰によってマイケルを心の闇から救えず、自責の念が増えただけでした。

ニール・ヤングの「Who's Gonna Stand Up? 」
Who's Gonna Stand Up? [12 inch Analog]

Who's Gonna Stand Up? [12 inch Analog]

  • アーティスト:Young, Neil
  • 発売日: 2014/12/22
  • メディア: LP Record
 

マイケルは生前、遺言を残していました。

それは遺灰を汚染された川に散骨し、讃美歌の代わりにニール・ヤング「Who's Gonna Stand Up? 」を歌うというものです。

自然をそのままにしよう
未来の子供たちのために
植物、土、川を守るんだ
ダムも化石燃料も必要ない
誰が地球を守るために立ち上がるんだ?
全てが君と僕から始まるんだよ
いのちを生み出そう
僕らの息子と娘のために

マイケルの死をきっかけにトラーは、「環境汚染」について興味を抱き調べ始めます。すると聖職者であるがゆえに、環境破壊の実態に怒りがわくものでいた。

そしてその怒りは、息子を戦士させてしまった、「戦争」の正当化が見つからないことを、「環境汚染」問題の追及に向かう行動へ転化し、のめり込んでいきます。

∴トラー牧師の「心の闇」

トラーは息子の死と、それが原因で妻という心の支えも失い、その上胃がんに侵されていました。

1年間限定で日記をつける、というのはトラーの余命のことでしょう。

日々、聖職者として神の教えと照らし合わせ、自問自答をしながらくらしますが、覆されていくのです。

しだいにトラーのアルコールの量も増え、心身が崩壊していきます。トラーは信仰では自分の心を支えきれなくなり、自由と救済を探りはじめます。

●静かな心の崩壊

ある晩、メアリーが眠れないため散歩し、教会に救いを求めに来たといいます。そこでメアリーは、スピチュアル的な儀式「マジカル・ミステリー・ツアー」をしてみようと、トラーを誘います。

仰向けに横たわるトラーの上に、メアリーがうつぶせで重なるように横たわり、瞑想をはじめます。

その儀式はトラーに、地球の成り立ち、美しい風景を見せ、夢心地にさせた後で、滅びゆく幻をみせました。

それは、環境汚染による地球崩壊の脅威をトラーに植え付け、やがてトラーもマイケル同様に暴走を始めてしまいます。

●自由への解放

トラーは憑りつかれたように、マイケルが調査していた「環境破壊」に関することを調べ始めます。

その中で、教会の支持母体アバンダント教会と、周辺で環境破壊で問題のあったワースト企業バルク社が、癒着関係にあったと知ります。

母なる地球を破壊する企業と支持母体が、金銭で繋がっていることに怒りを覚えます。トラーの元を去った妻のエスターは、寄りを戻しトラーの助けになろうとします。

しかし、アバンダント教会の職員のエスターは、もはやトラーのであり心の自由を妨げる邪魔者でした。トラーは聖職者として強いてきた慣習(我慢)を捨て、自由を追求しはじめたのです。

∴自爆へのカウントダウン

魂のゆくえ

(C)Ferrocyanide, Inc. 2017. All Rights Reserved.

ある日、アバンダント教会のジェファーズ牧師は、心身脆弱となったトラーにファースト・リフォームド教会の設立250周年行事から退くことを促します。

逆にトラーはジェファーズ牧師に、バルク社との癒着関係に対し、教会として環境問題に言及しない疑問をぶつけます。

ジェファーズ牧師は、「これも神の思し召しなら、トロイの時にも一度やっている」と、言います。

この時にトラーは、マイケルの残した自爆ベストを使い、バルク社の役員も出席する、250周年の記念行事の日自爆をすると決め、カウントダウンのスイッチをいれます。

式典中に自爆を企てたトラーは、メアリーに教会には来ないよう、強く言いますがメアリーは来てしまいます。

トラーはメアリーの姿を見つけると自爆を断念し、洗浄剤で自殺を図ろうとし、そこにメアリーが現れ、トラーは自殺をとどまったようになります。

このシーンで唐突にラストを迎えます。この映画を観た方の多くは、この終わり方に違和感を感じたことでしょう。

∴メアリーはトラーの救世主「セントメアリー」?

魂のゆくえ

(C)Ferrocyanide, Inc. 2017. All Rights Reserved.
●メアリーの存在とは…

メアリーは敬虔なクリスチャンであり、献身的な妻でもありました。しかし、マイケルの自殺もある程度、予期していたように取り乱すシーンもなく静かでした。

マイケルの葬儀は、バルク社の工場近くの汚染された川で営まれ、その模様がネットニュースに取り上げられました。

その時のメアリーの様子を見た時、実は彼女の方が地球の環境を守る、過激な環境保護活動家なのでは?とすら感じさせたのです。

環境活動家の悲劇の死と、残された身重の妻、バルク社が出した汚染物質で、汚染された川、ニールヤングの曲という構図で、抗議活動を演出したとは考えられないでしょうか?

●二人が死を選んだわけ

マイケルとトラーの自殺の動機は、同じだと考えられます。

環境破壊への悲観や絶望からではなく、自爆テロによって多数の人を死傷させようと目論んだことが、メアリーに知られてしまうのを恐れたからでしょう。

メアリーはマイケルのことを、人に暴力をふるうような人ではなく、争いごとも好まない夫だったと、話しています。

そして、トラー牧師は聖職者という立場だったから、愛する者に知られたくないことを、知られてしまったからです。

●救世主セントメアリー

時間になっても、式典に姿を見せないトラーを呼びに、ジェファーズは控えの部屋に行きますが、施錠されていたため席に戻っています。

その控え部屋にメアリーが登場したのが、非常に不思議でした。あれはトラーが死の間際に見た、救世主メアリーの幻影ではないでしょうか。

いつしかトラーは、メアリーに救いを求めていたのです。メアリーを聖なる者にしたて、真の魂の解放を果たすシーンに結びつけたのでしょう。

まとめ

この作品に関して言うのであれば、「教会」を存続させ、大きく発展させるためには、大きな支援も必要となり、その支援団体の特性特質によっては、宗教理念との隔たりが生まれ、矛盾が生じ、都合のいい解釈で正当化せざるを得ないこともあるでしょう。

そういった両者の利害関係を、わかりやすく描いていると言えばそうなるが、ストーリー展開が、淡々としすぎていてメリハリがなく、観る者によっては何を訴えようとしているのか?疑問だけが残ってしまう作品とも言えてしまいます。

神を信じる者にとって守るべきものはいったいなんなのか?
目先の支援のために臭いものに蓋をしてよいのか?

宗教者の立場でいえば、そういった苦悩を描いた話です。ラストシーンの解釈は、観る人の捉え方でいくつもあり、正解はありません。

ポール・シュレイダー監督の50年に及ぶ、構想の末に完成した『魂のゆくえ』は、監督の生涯を集大成させただけでなく、未来の地球に課題を残さないため、現代人の役割について、問いかけている映画でもありました。

 


◆視聴できる動画配信サイト◆

  1. 「U-NEXT」まずは30日無料視聴
  2. 「Amazon Prime」で視聴する

◆レンタルDVD/Blu-rayで観る◆

  1. 「TSUTAYA DISCAS」今すぐ30日間無料トライアル